大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)107号 判決

上告人

大阪裏地株式会社

上告人

株式会社清原商店

右両名訴訟代理人

阿部幸作

越智譲

被上告人

定月由一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人阿部幸作、同越智譲の上告理由第一点1ないし13および第二点1ないし5について。

論旨は、要するに、訴外有限会社松西商店と上告人らとの間の本件売買契約の目的物件は、上告人大阪裏地株式会社については原判示の第一目録記載の物件であり、上告人株式会社清原商店については同第二目録記載の物件であるとし、上告人らにはいずれも原判示の如き詐害の意思があつた旨認定した原判決は、証拠の価値判断を誤り、審理を尽さずして不当に事実を認定した違法がある、というのである。

しかし、所論の点の原判決の認定判断は、これに対する判決挙示の証拠並びにこれにより原審の確定した事実関係に照らして首肯するに足り、その判断の過程において所論の違法はない。

所論は、結局原審の裁量に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであつて、採用できない。

同第一点14ないし17について。

論旨は、要するに、本件売買は適正価格でなされたものであるから、詐害行為にあたらないのにかかわらず、これを詐害行為にあたるとした原判決は、法令の適用を誤つた違法がある、というのである。

債務超過の債務者が、特に或る債権者と通謀して、右債権者のみをして優先的に債権の満足を得しめる意図のもとに、自己の有する重要な財産を右債権者に売却して、右売買代金債権と同債権者の有する債権とを相殺する旨の約定をした場合には、たとえ右売買価格が適正価格であるとしても、右売却行為は民法四二四条所定の詐害行為にあたるものと解するのを相当とする(大審院大正一三年四月二五日言渡判決、民集三巻一六五頁、同昭和八年五月二日言渡判決、民集一二巻一〇五七頁参照)。

原審の確定したところによれば、訴外有限会社松西商店(以下松西商店という)は、昭和二八年三月一〇日頃債務超過の状態であつたところ、原判示の事情のもとに、同日債権者である上告人らと通謀して、他の債権者らを出し抜いてその犠牲のもとに、松西商店から上告人らに対しそれぞれ原判示の物件を売却し、その代金債権を以て上告人らの松西商店に対する原判示の債権と相殺する約旨で売買契約を締結したというのである。従つて、右認定の事実関係のもとでは、たとえ売買価格が適正価格であるとしても、右売却行為は民法四二四条所定の詐害行為にあたると解すべきであつて、右と同趣旨の原判決の判断は相当である。

所論は、独自の見解に基づき原判決を論難するものであつて、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官五鬼上堅磐 裁判官石坂修一 横田正俊 柏原語六 田中二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例